「隠者 THE HERMIT」

ある山の頂きに、一人の老人が暮らしていた。
彼は極めて博識で、
まるでこの世の万物に精通しているかのようであった。

多くの国から、老人に使者が会見に来た。

「我が国をもっと栄えさせたいのだ」
「さらなる領土が欲しいのだ」
「ぜひ私の国に来て欲しい」

しかし、彼はまったく興味のない風であった。
ただ静かに、山の頂きで暮らしていた。

とある国に若き王がいた。
民に慕われ、愛も深く、情熱もあった。
ある時、王はその老人の話を聞き、心打たれ、
彼を説得に行く決心をした。

「戦争や領土のために、
 そのような知恵あるものを使うなど。嘆かわしい。
 私なら、きっと彼も心を開いてくれるはずだ」

王はただ一人、旅人の風体で山に登り、老人に会った。
身分を明かし、心を込めて話した。

「私は国から争いを無くし、
 皆が楽しく暮らせるようにしたい。
 大きな領土も資産もいらない。
 ぜひ、手伝ってはくれないだろうか?」

しかし、それでも老人は首を縦に振らぬのだった。

「なぜ?わたしはあなたの知恵を、
 欲望のために使うつもりはないのだ」

それから何日も彼は山に出向き、老人を説得した。
しかし、彼の答は変わらなかったのである。
それでも王は諦めず、山に滞在した。

山には麓の村人達も、たまに出向いていた。

「今年の葡萄の実は、酸味がきついのだ。
 どうすればいいのだろう?」
「川にある水車を建て替えようと思うのだが、
 この時期でいいと思うかね?」
「子供が熱があるのですが、いつもの熱冷ましが効かないのです。
 他の薬があるでしょうか?」

そういった小さな村の問題に、老人は丁寧に答えていた。
若き王は、その様子を何日も何日も、じっと眺めていた。

とある日、また王は彼に訊ねた。
「私の国に来てくれないか?」
「それにはお答えしたはずです」
「あなたがいなくなれば、村人が困るからかね?」
「いいえ」

「・・・・・・・」




姑くの沈黙の後、若き王は、おそるおそる訊ねた。

「私の国には川が流れている。大きな川だ・・・

 川の中流には三つの村がある。
 しかし、西の村だけが、毎年水害に遭うのだ」

そこまで言って、王は口を閉じ、じっと彼を見つめた。



「・・・・続けなさい」

王の顔がぱっと明るくなり、
堰を切ったように語り出した。

「私は、川の形のせいだと思うのだが」
「どのような形ですかな」
「西の村の北側で、こう、三日月のように曲がって」
「この紙に描いてごらんなさい」
「うむ」

若き王は子供のように紙に筆を走らせ、
その途中、顔をあげて、泣き笑いの顔で彼に言った。

「学べば良かったのだ。学べば、良かったのだ。
 そうだな?」

老人は、白い髭をさすりながら、
にっこりとうなずいた。

『知恵を、求めよ。
 知恵あるものを、求めるのでは無く』

それからしばしば彼は山に出向き、
老人を連れて帰る事こそなかったが、

彼は多くの知恵を学んで帰り、
国はますます栄えたと言う。


カードの真意「指導・真理」


さて、「隠者」です。
読んでいて気付かれた方も多いかも知れませんが、

この物語は、「魔術師」の物語に
近いものがありますね^^

まぁ、それもそのはずで、この「隠者」までが
一応「人界」といいますか、「人間界」での
さまざまな理(ことわり)を表していると私は考えています。

今、その人にとって、最も大事なものは何か?
そう言ったものを示すカードの数々で、
ここ「隠者」に至って、人はそれまでの経験、知識から
「どのような決断をすればいいか」の前準備に入ります。

「内省」という言葉が近いのかなぁ。

このカードを「自分で考える」とか「経験者からのアドバイス」とか
書いてある本も多いですよね。
そう言った事柄に共通しているのは、

やはり「決断の前夜」というイメージでは無いでしょうか?
行動を起こす前に、じっくりと考える。
ですから、カードで出た時は、
周囲に「誤った考え」や「焦り」「誤解」を意味するような
カードが無いか、注意すべきですね^^

上の話は、私達占い師にも言える事で、
いまさらここに書くまでも無いのですが、
やはり決断と言うのは「本人」が行うもので、

われわれはそのちょっとした「アドバイザー」として、
はじめてその価値があるように思います。

「魔術師」の時のような若々しい知識のイメージとは違い、
このカードに描かれているのは、

深い、円熟した「真理」のイメージです。
それに到達するためには、
やはり本人の「思索」と、それなりの「時間」が必要であって、

決して答を委ねたり、どこかから引っ張ってきたりするものでは
ないように思うのですね^^

さて、次回からは第二章と言うか、
「運命の輪」から「世界」までの、

「人間界」のさらに「外側」まで、
足をのばしてみましょう。

どんな物語が待っているでしょうか?

お楽しみに。
あんまり期待しちゃ、ダメですよ^^;


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