「死神
 THE DEATH」

ある大きな街に、気むずかしい老人が住んでいた。
彼は事業に成功し、大きな会社を持ち、
十分に裕福な暮しと大きな屋敷と財産を持っていた。

彼はそろそろ健康に問題があったので、
その事業を役員達に譲り、自らは引退する事にした。

「お前達の失態で商売敵に追い抜かれるようであったら、
 いつでも座は他の者に譲り渡すからな」
彼は全員にきつく言い聞かせて、会社からの配当によって生活を続けていた。



さて彼の屋敷には広大な庭園があった。

庭園には何人かの庭師が雇われていたが、その中に、まだ見習いの少年がいた。
少年は言語に障害があった。そのせいというわけではないが、
仕事は、はかばかしくなく、あまり熱心でなかった。

「やる気がないなら辞めても良いのだぞ」
時折老人はそう言って彼を恫喝したが、それでも反省するのは最初だけで、
しばらくすれば、また適当になるのが少年の日常であった。

(困ったやつだ。可哀相だが辞めてもらうか)
ある日老人は彼に通告するため庭に向い、
庭園の片隅で座り込んでいる少年を見つけた。



その頃にしては暖かな冬の晴れ間の陽射しの元、
わずかに木陰の被る庭の片隅で、よく見ると、彼は絵を描いていた。
安物のスケッチブックにコンテで指先を真っ黒にさせて、
かりかりと一心不乱に描いていたので、
少年は後ろから老人が近付くのも気付かぬ風であった。

「良い絵だな」
「!」少年は仰天して振り向いた。

「仕事に身が入らんのは、こういう訳だったのか」
「・・・・・・」「他の絵も見せてみろ」
老人は彼からスケッチブックを受取ると、ばらばらと捲って絵を眺めた。
絵の題材は様々で、筆致は粗雑だが力に満ちていた。

「ふむ。誰かに指事されておるのか?」「え・・あ・・」
「絵の先生に付いているのかと聞いているのだ」少年は首をふった。
「ほう、では独学かね」また彼は首をふった。
「?・・どういうことだね」

「あ・・うあ」彼は身振りで十字を切った。
「神父?教会のか?」少年は頷いた。
老人は敢えてそれ以上は問わなかった。
教会には幾人かの孤児が身を寄せている事を、知っていたからである。

「じつを言うと、今日は辞めさせるつもりで話に来たのだ」
「!」「確かに外の風景は日中でなければ描けんな」
「・・・・・・」「だがそれが仕事をさぼる口実では困る」
「・・・う・・」

「今日からは、昼の3時を過ぎたらあがるように」
「あ・・え」「給金は今までと同じに出す」「・・」
「気まぐれだ。気が変わらぬ内に返事をしろ」
「あ、あ」少年は何度もうなずいている。

「うむ」

(ふん。私も寛大になったものだ)
まだ呆としている少年を残したまま、
そんな事を思いながら老人は庭園を後にした。



ある晩、老人は夢をみた。夢には少女が出てきた。
少女は涙を流し、何か呟いていた。

(はて、あの子は誰だったか)
朝、目を覚ました老人は考えてみたものの、
その少女が誰なのか一向に思い当たる節がない。
諦めた老人は軽く咳き込んで、机の書類に手を伸ばした。
業務の書類に目を通すのが彼の朝の日課で、
引退してからもそれは変わらなかった。

「成績が落ちているな」
苦虫を噛み潰した顔で、彼は乱暴に書類を放った。
しかしこの頃は不況が続き、時代も不透明で、
業績の悪化に喘いでいるのは老人の会社だけではなかったのだ。

(工場の移転を、そろそろ考えるか)

「あの、お館様」

ふと気が付くと、庭先から庭師長が声をかけていた。
「うん?どうしたのだ」
「北の造園が終わりましたので御報告を。
 昨夜考えたのですが、やはり新しい岩棚にはゼラニウムがよろしいのでは」
「そうか、まかせよう」
「へい、ありがとうございます。それと例の小僧ですが、手紙を預かってまして」
「手紙?」

老人が受取った手紙は、教会の神父からのものだった。
少年にとった配慮に対して礼が言いたいので、
一度教会にお立寄り下さいという内容である。

「礼が言いたいから来い、とはな。
 丁寧な物言いだが、どうも聖職者は世間を知らん」

それでも老人は暇でもあり、なにより興味があったので、
少年の住む教会へと出かける事にした。







教会は古くて質素だが、小綺麗な建物だった。
街はそろそろ夕暮れで、通りの石畳を子供達が数人、
冬の早い西日を受けてわぁわぁと走り回っている。その中に少年も混じっていた。
遊びに夢中で気付かぬ彼をしばし眺めていた老人の後ろから、
ふいに、声が聞こえた。

「わざわざお越し下さって、ありがとうございます」
老人が振り向くと、あっさりとした法衣を着込んだ神父が立っていた。
壮年と言うにはもう白髪も多く、細面で優しげな目をしていた。

「この度の御心使い、感謝しております」
「別に礼を言われるほどの事もない。絵はあんたが教えたそうだが」

二人は建物へ歩きながら話を続けた。
「私は最初だけです。後は彼の努力の賜です」
「ふむ。あの子らは、皆ここで暮らしているのかな」
「はい。皆それぞれに事情のある子供達です」
「しかし、信者の寄付でやっていけるものなのかな」
「ええ、何とか。それに彼のような年長者が、外に働きに行ってくれます」
「孤児院にまかそうとは思わんのかね? 決して楽ではなかろう」
「私も先の戦争で親を亡くして、ここで育ったのです」

「・・そうだったか、私はあの時は一兵卒に過ぎなかった」
「では戦地へ? 騎馬隊で参加したのですか?」
「いや、歩兵だ。撃たれてすぐ帰されたがね」
老人は右の肩をさすりながら苦笑した。
「今日のような暖かい日は有難い。冬場は今でも少し痛む」
「さようでしたか、もうかれこれ五十年になりますな」
「そんなになるかな、歳を取るはずだ」

二人が話す中、ぱたぱたと子供達が帰ってきた。
少年はそこで初めて老人に気付き、ちょっと驚いた顔で、
それでもにこやかに会釈をして、食堂に走って行った。

子供達の夕食の支度は手際の良いもので、
食事は質素ではあったが賑やかだった。
老人も大勢での食事は久しぶりで、最初はやや戸惑いを見せていたが、
そのうちに気も和み、子供達が部屋に戻った後も、
時の経つのも忘れて神父と昔話に花を咲かせていた。

「おや、もうこんな時間ですか。馬車を呼びましょう」
「おお、すっかり長居してしまったな」
椅子から立ち上がりざまに、老人は少し考え、神父に言った。

「あの子に、絵画を学ばせようと思うのだが」「え?」
「失礼だが、今の教会では、手話はともかく美術の教師は雇えまい」
「・・・・・」ランプの灯りをじっと見つめたまま、神父は考え込んだ。

「おせっかいかね?」「いえ、そんな」
「他の子らとの兼ね合いを考えているのかね?」「いえ」
「良い話と思うのだが?」
しかし神父は真剣に悩んでいるふうである。
老人もそれ以上は何も聞かず、彼の答を待っていた。




「・・・秘密を守れると、主に誓って頂けますか?」
やがて神父が口を開いた。今度は老人がしばし考える番となった。

「・・・聞けば重荷になるようなことがらかな?」
「なんとも言えません。私もどうすれば良いのか、
 考えあぐねていたのです」

「ふむ。よかろう。これも何かの縁だ」
「しかし、どう話していいやら・・そうだ、
 ちょっと見て頂きたいものがあります」

二人は廊下を抜け、やがて老人は、
かすかに絵の具の匂いのする小部屋へ通された。
どうやらここで少年は絵を描いているらしい。
部屋の片隅の随分と古いイーゼルの上に、
描きかけのキャンバスが置いてあった。

「彼のものかね」
「はい。おかげさまで最近は、絵の具も自分で買い足しているようです」
「そうかね・・ふむ、これは・・私の家だな?」
薄暗いランプの灯りの下であったが、その絵を見ると、
見慣れた風景のはずが、

老人には奇妙な違和感があった。

「お宅の庭だと思います。何か変ではありませんか?」
「変?・・いや、変と言うか・・待てよ・・」




老人の記憶に閃光が走る。
(昨夜考えたのですが、やはり新しい岩棚にはゼラニウムが)
その絵の岩棚には、すでにゼラニウムが描き込まれていた。




「?・・」老人は混乱した。
「では彼が、庭師長に案を出したのか? いや、逆に話を聞いたのか?
 しかし・・考えたのは昨夜と言っていたが」
「やはり何か、おかしいところがありますか」
老人は神父に向き直って尋ねた。「やはり、とは?」

「こちらの絵を見て頂けますか」
老人が目をやると、その絵には教会が描き込まれていた。
「・・ここです」神父が指さした先の絵の、小窓のガラスが割れている。
「・・実際の場所も、割れているのかな?」

「はい、一昨日の事です。子供らがボールで」
「一昨日?この絵を描いたのは、いつなのだね」
「一月ほど前でございます」

あまりに突拍子もない結論が頭に浮かんだ事に、
老人は自分で戸惑いながら重ねて尋ねた。

「で、どう思っているのだね?」

しかし神父は、老人の結論と全く同じ答えを返した。



「あの子は時おり、未来を描くのです」




         ◆◆◆



 ―少女は、涙を流していた―


「!」老人は跳ね起き、額の汗を拭った。
「また、あの夢か・・」胸に手を当てると、徐々に呼吸が治まっていく。
同時に昨夜の神父の、別れ際の言葉が蘇ってきた。

(不思議なちからです。不思議ですが、
 これが主の御業であるとして、彼に何をさせようとしているのか
 私には見当がつかないのです)

「・・ふん。ようは真偽を確かめるのが先という事だ」

遅い朝食の後、老人は呼鈴を鳴らした。
「お呼びでございますか」

「二階の客間の南側を、一部屋アトリエにする。
 必要な画材を買い込んでおけ。詳細は任せる」「は」
「それと美術の家庭教師を探して欲しい」
「家庭教師ですか?」執事は不審げであったが、老人はそれには答えず、
「優秀である事はもちろんだが、人選は何より口の固さを最優先するのだ。
 応募もあまり公にやられては困る。条件に見合えば遠方のものでも良い。
 給金の交渉は相場の五倍まで判断を任せる。週の時間割も任せる」
「かしこまりました」「以上だ。あと庭師長を呼べ」

「あの、お呼びで」庭師長は少しおびえていた。
老人の方から呼ぶ時は、決まって小言が返ってくるからだ。
「例の少年だが、仕事を外す」「!・・何かやらかしましたか?」
「いや、少し教育を受けさせる事にした」「へ?」
「必要なら新しい助手を雇うが、どうかね」
「いやぁ、別に手は足りてますし・・しかしまた酔狂な」
「要らぬ詮索だ」じろりと老人がにらんだので、
庭師長もそれ以上は何も言わず、肩を竦めて黙った。

「用事はそれだけだ。時に、ゼラニウムはもう植えたのかね」
「え? いや、もうしばらくかかりますが」
「そうか。お前の案であったな」「へぇ」
「誰ともまだ相談してないのか」「もちろん、お館様が初めてでさ」

「良い選択だった。あの岩棚には、似合うぞ」
老人は軽く笑って彼を追い返した。
そんな褒め言葉は初めてであったので、
妙にこそばゆい感じを受けながら、庭師長は仕事に戻って行った。



動き出してしまえば、事はばたばたと、しかし順調に進んだ。
少年には神父が話し、彼は素直に喜んでいた。
美術の教師はすぐに見つかり、経歴は申し分なく、
さっそくスケジュールが組まれた。

ただ絵画の素材に関しては条件がつけられた。
「静物画より外の風景画を優先させるのだ。できるだけ街中が良い。
 構成は気にせずとも良いから、彼の好きな場所を選ばせろ」
美術の初期的な教育としては多少風変わりな要求であったが、
必要経費は全て計上できる契約なので、教師はこれを快諾し、
少年を街のあちこちに連れて回った。




「風景を描かせるのは正解だと思います」神父は言った。
この頃になると、老人は頻繁に教会に訪れるようになっていた。

「しかし美術の教師は大丈夫でしょうか?」
「気付くのは仕方のない事だ」「そうなのですか?」
「口の固さはもちろんだが、彼の傍に付く人間は必要だ」

紅茶を少し啜って、老人は続けた。

「教会の絵は、今は現実と寸分の違いもない。実際ガラスも割れている」「はい」
「つまり彼の絵は残るが、その奇跡は時間と共に消える性質のものなのだ。そうだろ」
「そうですね・・・あ、なるほど」

「うむ、われわれがずっと彼と行動を共にできない以上、
 そして奇跡の消える時間がいまだはっきりしない以上、
 彼が描くのと同時刻に、風景と絵を見比べている人間が必要だ。
 美的才能より、その観察眼が必要なのだ」
「確かに、完成した絵がすでに現実になっていれば、私達には違いが見抜けません」

老人は頷いて、続けた。
「それに、何かの際に証人が要る場合もあるかも知れん」
「証人・・しかし、どんなケースになれば、そういう事態になるでしょうか?」
「それは彼が何を描くかによるだろう。今は、待つだけだ」


案の定、美術教師から報告が上がってきた。
風景に関して、彼は見たままを描かない時があると言うのだ。
「そのまま描かせてやってくれ、自由な発想を妨げたくない。
 技術的問題があれば、手助けを頼む」
老人はそれだけ返答した。逆に考えれば、それは成果である。
なにより気付きの早さが、教師の観察力の確かさを意味していた。
彼は満足し、少年にはできるだけ細密画の手法を学ばせるように指示した。  


老人は絵の完成を、楽しみに待った。
よって当然ではあるが、あまり会社に口を出さなくなっていた。
「来期の予算組みが迫ってきていますが」
少し心配になった役員達が、彼を訪れる日もあった。

(口を出せばしかめっ面、出さなければ何も決められんのか)
老人は、あからさまにため息を付いてみせる。
「何か心配事でもおありで」
「会社の行く末が心配だな」「はぁ、確かに不景気が長いですな」
「私が言いたいのは来期の予算より人材の確保だよ。
 新型機械の技術者は都合が付いているのかね」
「あ、いえ、それがまだ何とも・・」

 老人が机を叩く。役員達が一斉に肩を竦めた。
「これから我が社の製品は客船に需要が見込まれるから、
 港の近くに工場も移転するのだ!
 作りました動きませんでしたでは話にならんのだぞ!
 技術者の教育指導は前年度の事項に組まれていたではないか!」
「お、仰る通りです」
「稼動しない工場など絵に描いた餅・・おお、時間だ」
老人は自分の台詞で予定を思い出した。むろん教会に行くのである。
「あ、あの来期の」「移転の試案を練り直してからだ」
それだけ言って彼は、ばたばたと出かけて行った。


「馬鹿ばっかりだ」
「何やらお悩みのようですな、懺悔しますか」神父が冗談っぽく話す。

春先の陽気がぽかぽかと暖かい中、二人は庭先で立ち話をしていた。
ただそれは単に天気が良いからだけでなく、
今日は街に出ている少年と教師が、
ここに立ち寄る予定になっているので出迎えているのだ。

「金の帳尻を合わせる事が経営、と思ってる連中が多くてな」
「会社の事でお悩みですか。さすがにそのあたりは、助言致しかねますね」
「いや、もっと本質的な事だと思うのだ」「と言いますと?」
良く晴れた空を眩しげに仰いで、老人が続ける。

「人を育てると言う事に、無頓着すぎる。
 あんたのやっている事の方が、いくらか、まともだ」
「・・世が住みやすく便利になるほど、
 人は人のちからを軽視しがちになります、風潮では済まされぬ事ですが」
「そうだな・・おお、彼らだ」
少年が手を振って走ってきた。その後から教師が付いてくる。

「どうもお待たせしました」

その人の良さそうな教師はまだ青年で、すらりと背が高く、
ぼさぼさの前髪に隠れた丸眼鏡の奥の目は、いつも笑っているかのようである。
おそらく東洋系の血が流れているのであろう。
「いつもこの子がお世話になっています」神父が挨拶した。
「いえそんな、たいした仕事では・・あ、」

「良く分かっているじゃないか」老人がちらりと目をやって言う。
「いや、えーと」
「むろんこれだけで、今の報酬が手に入るとは思っていまいな?」

しばし老人と青年が沈黙する。

先に口火を切ったのは青年で、
「いろいろと妙な注文が多いとは感じていました」
「腹のさぐり合いは止めよう。今、どう思っているのだね?」
「まぁ、おそらく美術の教育は二の次なのだろうな、と」
「何ゆえその結論に至ったのかね?」

「彼の筆圧は高く象徴派向きです。あの荒さがいい。
 そして発想も自由に伸ばしたいという注文であるにも関わらず、
 細密画の技術を優先して学ばせるのは矛盾してます、まるで・・」
「まるで?」
「彼の絵そのものではなく彼が選択する素材の詳細に、
 興味があるように思えてなりません。
 そう考えると、やたらに風景画を描かせるという事も合点がいきます」
「そこまででよろしい」「はい?」

横で黙って聞いていた神父が、にこりと笑って言う。
「私は異存はありません。賢い青年です」
神父の袖をつかんでいる少年はきょとんとしている。
「うむ」老人は頷いて「さて本題だが」

「ちょっと待って。ヤバい話ならお断りですよ、給料は惜しいけど」
「法に触れたりはせん。ただ口外は厳禁だ」
「それだけですか?」「それだけだ」
「・・・正直、かなり興味はあります」

老人は少し笑った。
「若者はそうでなくてはいかん。中で話そう」




一部始終を聞いた青年は、最初に呟いた。

「・・リトグラフがいいかも知れないなぁ」
「リトグラフとは?」老人が聞き返す。
「版画の一種なんですけどね、もともと楽譜の印刷用の技術です」
「かなり緻密な表現が可能という事か。あの子に出来るかね」
老人はドアの向こうをあごでしゃくった。
廊下の向こうの小部屋で、少年は庭の絵の続きを描いているようだ。

「元絵は鉛筆画でも構いませんよ」
「しかし、この話を聞いた最初が方法論とは恐れ入る。
 感想はないのかね」
「いやぁ、まだ半信半疑ですねぇ」青年は頭を掻いて続けた。
「ただ、確かに彼はそういう描き方をするんです。
 その意図が良く分かりませんでした。例えばですね」

青年がスケッチブックをばらばらと捲る。
老人と神父は座り直して、目を凝らした。

「これは今、屋敷で描き込んでいる絵の原画なんですが、
 西の丘からの風景です。川向こうに通りを描いてますが、ここ」
「ん? こんなところに空き地があったかな?」
「ないですよ、本来はビルが建っています」
「ビル・・いや、待って下さい」そう言ったのは神父である。

「建て物が一つ消えてるのですか? それはあんまりだ」
「でもホントに建ってますよ」
「まぁ議論は後回しだ、続けてくれ」
「はい。あと左の岬の麓に道が見えますね、中腹に伸びてる道」
「ああ、描いてあるな」
「描いてあるだけです。実際こんな道ありません」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」



「割れたガラスとは訳が違いますな」最初に口を開いたのは神父だった。

「そーですねぇ、確かに変化の規模が大きすぎるなぁ。
 これが現実になるなら、ちょっとびっくりですよ」
「うむ、そのあたりは私が調べて裏を取ってみよう。
 お前さんは、さっき話した版画を試して欲しい」
「分かりました」青年が答える。

「それと気になったんだが」老人が絵を指して続ける。
「これはどう考えれば良いのだろうか」
「?」後の二人も顔を近付けた。指差した先には家が描いてある。
「これは・・梁が描いてある。建てかけの家ですね?」神父は青年に問いかけた。
「そうみたいですね、そういえば、実際にもありましたね」
「なぜこの絵の中で、家は完成していないのだ?」

三人は顔を見合わせた。さらに老人が続けた。
「未来を描くなら、この家は完成してなくてはおかしくないか?
 うちの庭の絵もそうだ。確かにゼラニウムは描かれていたが、
 それ以外は現在の風景そのままに描かれていた」
「つまりピンポイントで未来が描かれていると」
「そうだ。だからかえって絵に違和感がある」
「僕もそれを感じました」青年が答える。

「彼は関心のない部分は、本当にそのまま描くんです。
 現在の風景と何ら変わりなく。その中にぽつんぽつんと、
 変な部分が混じってる。まるで雑誌の『間違いさがし』のようです」

そこに神父が答えた。
「しかし当然、未来においても変化しない部分は
 そのまま描くでしょう」

「最初は私もそう思った。だからここが気になったのだ。
 建てかけの家は明らかに変化していくはずだぞ。
 しかし彼は、この家の未来には何ら関心がなかったのだ。
 この気まぐれさは何を基準にしているのだ?」
「・・・・・・・」

老人は神父に言った。
「この件に関して、あの子と話した事はないのかね?」
「あまり詳しくは・・正直な話、最初は私の勘違いと思っていましたから。
 ただガラスの件は聞いた事があります、まだ割れる前に」
「何と言って聞いたのだね」
「この窓はなぜ割れて描かれているのか、と。もちろん筆談ですが」
「で、何と彼は答えたのかな」




「言っても分からない、と答えました」




「・・・それは、あんたの質問への回答を拒否した、という意味かね」
「私はそう取りましたが。ですからそれ以上は何も聞いてません」
神父は苦笑した。




         ◆◆◆



(なぜ、言ってくれないのだ)

 ―少女は涙を流していた。唇を噛み締めて。―

(またこの夢だ)(「夢ぐらい見るだろう、いちいち構うな」)
(誰だ!)

そこで老人は目が覚めた。春の雨がしとしとと降る朝である。
こういう日は右肩が少し痛い。二、三度頭を振って気合いを入れる。
少し厚めに服を着て、彼は街に出かける事にした。


「ここでいい。帰りは寄る場所があるから迎えはいらない」
馬車を降りた老人は濡れた石畳を歩き、傘の下から屋上を見渡す。
比較的大きな通りに面したそのビルは、何の変哲もない建物であった。



新しくはない。装飾のデザインから考えるに、
少なくとも20年は経過しているはずである。
(建て直す予定でもあるのだろうか)
老人は、すでに調べておいた不動産屋に足を運んだ。

「あそこねぇ。空き部屋はそんなにありませんよ」
不動産屋は面倒くさそうに台帳を見ながら答えた。
「いや、持ち主を知りたいのだが」「え、建物の売買を御考えで?」
いきなり店主の態度が商売人に変わる。
老人の身なりから、値踏みをしているのであろう。

「あれはいい物件でしてね。立地もいい。だから値段も結構なもんです。
 もっとお買い得な物件なら」
「建物自体は古そうではないか」「う、いやあのデザインが希少なんですよ」
「外装の工事とかの予定はないのかね」
「いやぁ、今のところ。それより同じ通りでしたら別に二件ほど」

(今回は外れかな)老人はそう思って店を出ようとした。
「まぁまた考えてみよう」「え、いや」

突然、壁掛けの電話器がからからと鳴った。

老人が振り向く。
まるで彼を引き止めるかのように、電話は鳴り続けている。

「えい!こんなときに!もしもし!・・・」店主が電話に出た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」店主が表情を変えた。
「・・・はい、はい・・・・わかりました」店主が電話を切った。
「・・・・・・鳥肌が立っちまった・・・」店主が呟く。
「どうしたのかね」
「あのビルのオーナーが亡くなったそうで」


今度は老人に鳥肌が立つ番であった。
「・・本当かね?」「冗談なんぞで言えませんよ、こんな事」
「うむ・・・・それで、どうなるのかね、あそこは」
「ええと、一応息子さんが相続するとは思うけど、ここだけの話」
「うん?」「息子さんは売りたがってたんですよ、前々から」

「・・・・・・・」「ですから売買物件に載ると思いますが・・」
「確かな情報かね」「管理を任されてますからね、どうされますか?」

「・・いや、やめておこう」
「そうですか、うん、まぁ気が変わったらまたお越し下さい」
店主もさすがに神妙な面持ちで、敢えて勧めるような事はしなかった。

雨はしとしとと降っている。
(いったい何だ、このタイミングは)
老人は苛ついた足取りで、濡れた歩道をばしゃばしゃと歩いた。
(おそらくビルは売却され新築されるのだ。絵の奇跡は成就する)
(しかしそれをなぜ私の目の前で見せつけるのだ)



「それはまた験の悪い話でしたね」青年が言った。
この日は雨なので少年は街に出さずに、屋敷で絵を描かせたまま、
三人は教会に集まっていた。

「しかしこれでまた奇跡が増えたわけだ、おそらくビルは解体される」
「そうでしょうね。もう一つの方はどうだったんです?」
「例の岬の道か。あれは分からん。役所に聞いても道路を作る予定もないそうだ」

神父が紅茶を注ぎながら聞いた。
「また何か突発的な出来事で、それも成就するのでしょうか?」
「そうかもしれんなぁ・・・待てよ、突発的か、そうか・・・」
「どうしました?」

「ガラスが割れる。ゼラニウムが植えられる。ビルが壊される。道路が出来る。
 これらは全部、風景からは予想できない未来だ」
「そうですね、だから『間違い探し』に見える」
「しかし建てかけの家がやがて完成する事は、誰にでも予想できる。
 あの子は、そういう誰にでも分かる事には関心がない、と言うより描かない。
 これが意味するところは、ひとつしかない」

「・・・知らせるため、ですか?」神父が答えた。
「そうだ。人が予想できない事だけを選んで描くという事は、
 それを第三者に知らせるという意図があるとしか考えられない。
 見える未来を、ただ興味本意で描いているのでは、ないのだ」
「つまり一種の予言ということなのかなぁ、オカルトじみてるなぁ」

青年が言うのを聞いて、神父が苦笑してたしなめる。
「確かにそうだが、こういう場所でめったにそんな事を言ってはいけませんな」
「あ、教会か。すいません」青年は頭を掻いて続けた。
「でもですよ、窓のガラスが割れる事を予言するのに、何か意味があるんです?
 ガラスだけじゃない、今まで描いてる事だってそうです」
「意味か・・そうだな、予言と考えるには意味がない、うーん」

そこでまた三人は悩んでしまった。確かにそこには何ら意味が見出せない。
(何かまだ見落としている共通点が、あるのだろうか?)
老人は紅茶のカップを持ちながら、ぼんやりと窓の外を見た。
雨は相変わらず、遠くの景色を煙らせたままである。



昼過ぎに老人は教師と共に屋敷に戻った。
青年は午後から夕方まで、少年に絵を教えるスケジュールだったので、
そのまま2階のアトリエに上がっていった。
少し疲れた老人が一服しているところへ、執事が入ってきた。
「失礼致します。今日は朝から役員の方々がお越しでしたが。
 新しい試案が出来たと仰っておられました」

「私の行き先を告げてはいまいな」
「はい。散々尋ねられましたが。皆様随分興味がおありでした。
 最近会長はいったい何に夢中になっておられるのかと」
「やれやれ、そういう詮索には精力的だな」
そういって彼は今朝の分の書類にばらばらと目を通した。



「!!!!!」一瞬にして、老人が硬直する。
新工場の建設予定図に、少年の描いた道が載っていたからだ。



「いかがされました?」
「いや、ちょ、ちょっと上へ行って、彼を呼んできてくれないか!」
「家庭教師様ですか」「そうだ、頼む!」
心臓が破裂するかと思うほど、鼓動が早い。

(これは!これは!どういう事だ!)

胸をぎゅっと押さえて、それでも彼は地図を詳しく見直す。
間違いなく移転予定地は岬の中腹に位置していた。
その工場に向けて新しい道路が走っている。少年の描いた絵と寸分変わらない。
(港の近く・・私の・・工場に続く道だったのか?)

「どうしたんです」手にスケッチを持ったまま、青年が心配そうにやってきた。
「これを、ちょっと見てくれ」老人は彼に地図を手渡した。
青年の顔が真剣になる。やはりすぐ地図の道に気付いたらしい。
「これは・・あの道と同じですね。何かの建設予定図ですか?」

「うちの工場だ」「え!・・・」



老人は、これまでの移転計画を、かいつまんで青年に話して聞かせた。
どうやら話しているうちに落ち着いてきたのだろうが、
それでも憔悴したように椅子に深く座り込んでいる。
「今日は散々だ・・・心臓に悪い事が多すぎる割には、
 何一つ謎が解けてないような気がする」
「しかしこれで、とりあえず全て裏付けは取れたわけで」

「わしらの勘違いや妄想ではないという裏付けがな」
老人が皮肉まじりで言い放つ。青年も苦笑する。
「だからどうしろというわけでもない、か・・行き止まりですね、確かに。
 不思議な話ですが、得るものが何もない・・あ、そういえば」
「何だね」「こちらもちょっと困ってましてね」

「・・もうこれ以上、厄介事を増やさんでくれよ」
「そう言われてもですねぇ、彼が嫌がってるんですよ」
「何をだ?」「リトグラフです」
「例の版画をか?」「はい」

青年はぱらぱらとスケッチを捲りながら続ける。
「単色で刷るってのが気に入らないみたいで。やはり着色がしたいんでしょうね」
「まぁ、絵が好きならそうだろうな」
「あと、今夜は泊って塗り上げたいそうですよ」
「それは別に構わん。教会には連絡しておこう」
スケッチにはちょっとした果物や小物が描かれている。

「そんなのは描かせなくて良いと言っただろう」
少し渋い顔で、老人もスケッチを手に取ってぱらぱらと見る。
「風景画はあくまで優先課題です。基本的なデッサンも必要なんですよ」
そこはやはり美術の教師である。こだわりがあるのだろう。
「だいたい細密画を描かせると言うなら、ペン画にも慣れていかなきゃ。
 静物画は幾ら描かせても足りないぐらい・・どうしました?」



老人の目が見開かれている。カチカチと、歯の軋む音がする。
そのまま彼は上着の上から胸を押さえ付け、椅子から滑り落ちていく。
手にしていたスケッチがばさりと床に落ちた。


「ちょっと!どうしたんですか!・・おい!誰か!誰か来てくれ!」
驚いて執事が飛んできた。「いかがなされました!」
「医者だ!医者を呼んでくれ!」青年が叫ぶ。


少年のスケッチには、夢に出てきた少女が描かれていたのだ。







         ◆◆◆






(「言っても、誰も分かってくれない」)

 ―少女は涙を流していた 唇を噛み締めて ―

(「待ってろ、上に掛け合ってくるから」)

 ―足は裸足で泥にまみれ 寒さに震えていた―

(「夢ぐらい見るだろう、いちいち構うな」)
(「しかし、せめて索敵だけでもさせて下さい」)
(「本気で言ってるのか、お前は!さっさと追い返せ!」)

 ―少女には わずかの食料と 上着を渡した―

(「どうして?どうして一緒に来てくれないの?」)
(「上官の命令なしには、行動できないんだ」)
(「兵隊さんは私達を守りに来たんじゃないの?」)
(「本当に危ないと感じたら、親御さんと逃げるんだ、いいね」)

(『今が本当に危ないから言ってるのに!』)

 ―村が焼けたのを聞いたのは 三日後の事だった ―
 ―その事を 私はできるだけ早く忘れるようにした―

 ―私に 何が出来たと言うのだ         ―
 ―あの時の私は 単なる歩兵に過ぎなかった   ―
 ―命令に逆らうわけには いかなかったのだ   ― 
 ―夢に見たというだけでは 誰も動かない    ―
 
(『誰も信じてくれない!分かってくれないの!』)





「・・大丈夫ですか?」
老人は目を覚ました。青年がしきりに声をかけている。
神父と執事もベッドの周りに集まってきた。
「よかった。大事無いようですね」
「私は・・どうしたのだ」「いきなり倒れたんですよ、心配しました」

「彼を・・あの子を連れてきてくれ。話がしたい」
青年と神父が顔を見合わせた。かすかな戸惑いが感じられる。
「どうした?・・何かあったのか」「いえ、あの子は、いますが・・その」

老人の胸が、また痛んだ。しかしそれをこらえて、彼は言った。
「何か描いたんだな?そうだな?」
「まぁ・・そうです、でもまだ安静が必要です。見ない方が」
「いや、想像はついている」「え?」

「大丈夫だ。大丈夫だから、絵と、彼をここに」


少年が連れてこられた。描き上げられたキャンバスも一緒である。
それは例の西の丘から見た街の風景であった。
「・・・・完成したのか」
老人は、じっと絵を見つめた。特に何の反応も示さない。
青年と神父はいぶかしげに見守っている。
老人が何も言わないのが、不思議なのだ。

絵は、真っ赤に塗られていた。

空は赤く、雲は黒く。
街並は建物も、道も、河も、赤を基調に塗り込まれている。
しかし街の風景そのものには、何の変化もない。いつもの風景である。
赤いという以外には、どこにもおかしなところはない。
もはや「間違いさがし」というより「重ね絵」のようであった。

「これは・・炎が見えるのか」老人が尋ねる。
 少年は、頷いた。

「街が、燃えているのだな」    少年が頷く。
「・・・・・・・・・・」
「・・・あの子が頼んだのか?」  少年が頷く。
「・・夢で、頼まれたんだな?」  少年が頷く。

「言葉では伝わらないから、絵に描いたのだな」
 少年が頷く。

「・・・あの子は、村で死んだのか」
 少年が頷く。目に大粒の涙が溜まっていく。

「私の事を、恨んでいるのだろうな」
 少年は首を振った。涙がぼろっとこぼれた。



「・・・お前は、いい絵描きになる」
 少年は泣き続けていた。ひたすら、泣き続けていた。






「・・・そんな事って、あるんでしょうか・・」神父がぼそりと呟く。

老人は、思い出した全ての出来事を、神父と青年に話した。

「・・・あの時、前線は緊迫していた。
 私のいた小隊も全く補給が足りない状況で、足留めをくらっていたのだ。
 近くに村がある情報はすでに届いていたが、物資の現地調達は禁じられていた。
 私らは略奪の為に前線に来たのではないからな。
 ・・・しかし敵は、そうは考えなかった。
 連中は、私達が現地人から食料を調達していると判断した」

「・・・じゃあ、村を焼いたのは」
「そうだ。作戦行動だったのだ。それを知ったのが三日後の事だ。
 私達のせいで、村は全滅してしまった」老人は唇を噛んで、続けた。

「あの時私は、仕方がないと思った。そう思うようにした・・
 少女が見た夢の話だけで、誰を納得させられただろう?
 上官の命令を無視して、どうして行動を起こせただろう?
 仕方がなかったのだ・・そう思った」
「・・・・・・」

「だが今は何も理由はない」老人は両の手を握りしめる。

「命令を聞くべき上官は、ここにはいない。
 今度は言葉だけでなく、彼女はれっきとした証拠を示した。
 これで私が動かなければ、ただ自分を誤魔化していた事になる」

「この街が燃えると言うのですね? 戦争が起こると」
「そう伝えているんだ」「しかし本当にそんな事が・・」青年と神父は躊躇した。

「普通は信じない。信じられない。今ですらそうだ。
 こうして奇跡を目の当たりにしてきた私達ですら、そうだ。
 戦争が起こるなど、この街が燃えるなどとは、想像できない。
 しかし考えてみるといい」老人は強い口調で、二人に語りかける。

「これで信じなければ。これだけの奇跡を見せて、まだ信じなければ。
 もう方法は無いぞ。本当に街が燃えるのを見るまで。その時まで。
 信じさせる方法は無い。しかしそれでは、間に合わないのだ。」
「・・・・・・」

「つまり、それが『戦争の起こる本当の理由』だ」
「・・本当の理由?」
「そうだ。全ての人は、どこかで『戦争など本当に起こるわけが無い』と思っている。
 周りにどんな予兆が現れようとも、最終的には『起こるわけが無い』と。
 それだけ戦争は『非現実的』だからだ。だから本気で止めようとしない。
 当然だ。始めから『起こるわけが無い』と思っているものを、
 誰が本気で阻止しようとするものか」

「で、あなたはそれを本気で阻止しようと思っているのですね」神父がたずねる。
「そうだ、戦争自体が止められるほど、自分に力があるとは思わん。
 が、あの時の二の舞いは、もうごめんだ。今度は私は信じて動く」
「動けますか? あなたは地位も立場もある人なのですよ。
 自分の会社に対する責任もある。それでも最後まで運命を信じますか?」

「信じる。五十年越しの、奇跡なのだ」老人は即答した。

「・・分かりました。及ばずながらお手伝いさせて下さい」神父は答えた。
「乗りかかった船です、何かお役に立てるならば」青年も言った。







春の爽やかな風が、街中を吹き抜けていく。

電話のベルで、不動産屋の店主は居眠りから覚めた。
「うーん、はい、もしもし・・・ああ、憶えていますよ。
 あのビルですか。やはり売りに出されましてね、買い手も付きました。
 ええ、建て直すそうです。あなたの言ったとおりでしたな・・・
 予定日ですか?そうですねー、取り壊しが8月から9月ってとこですかね。
 いえいえ、また何かありましたら。はい。はい」
彼は電話を切った。「あ、名前聞いときゃ良かった。まだいい物件あるんだがなぁ」


老人は受話器を置いて言った。「やはり8月か9月らしい」

ここ数日は老人の屋敷の方に、三人は集まっている。
教会より、電話に加入している老人宅の方が便利という理由からだ。
神父が書類を読みながら答える。「工場の建設予定も10月ですか」

「うん、だから道路はおそらく8月か9月には完成するはずだ。
 二つの時期は一致している。街が狙われるのも、おそらく同じ頃だ」
「じゃあ、多めに見積っても猶予は三ヶ月ってとこかなぁ。
 でもこうして考えていけば、ちゃんと時期まで隠されてるってのが
 不思議と言うか、たいしたもんですよね、あの絵は」青年が言う。
「そうだね。しかし、突然始まるのでしょうか?
 新聞には戦争の徴候など、何も書かれていませんが」神父が首をかしげる。

「この街が国境沿いなら突然の進軍も分かるんだがな。
 そうでないから、おそらく狙いは港なのだろう。それか駅か。
 どちらにせよ拠点として街の設備が必要だと考えれば、
 戦争の初期に奇襲される可能性は高い」
「で、奪い合いですか。結局街は燃える、と。
 しかしどうあっても歴史は繰返すんですかねぇ」青年がため息をつく。

「どちらが火を放つのかは分からん。敵に施設を取られるくらいならと考えて、
 自国側が街を燃やす事だって十分に考えられる。それが戦争だ」
「そんな事が三ヶ月後に迫っていると思うと、ぞっとしますね。
 ・・どう動くのが、私達にとって最善なのでしょうか」

「会社の精算は諦めた方がいいだろうなぁ」老人が呟く。
「会社の皆さん、納得しないでしょうね。そもそも失礼ですが、
 あなたの独断で会社精算は可能なのでしょうか?」青年が言う。
「無理だろうな・・そもそも適当な理由が無い、私は引退した身だ。
 そんな事を言い出せば、逆に適当な理由で病院に軟禁されるのが落ちだろう」
老人が皮肉な笑いを浮かべる。

「でも街が燃えれば結局は無駄な投資になりますよ。
 確か船の部品工場でしょ?港が占拠されればなおさらですよ」
「今は財産より、時間が惜しい。残り三ヶ月と考えると、
 会社のごたごたで時間を潰しているのは、あまりに愚策だ。
 燃えてしまうならそれはその時の話だ、人が助かれば街は再建できる」

「なかなかできない、立派な判断だと思います」神父が感心して言う。

老人はまるで自分を奮い立たせるかのように、強い口調で答えた。

「いや、今回は本当に自分の判断に賭けて動かないと、道を誤る。
 変に欲張って道を誤っては、絵の奇跡が起きた意味が無い」

「しかしせめて、御自身の財産は整理されておいた方がいいです」
「うむ。だが今回は、自分だけ助かろうとは思わんぞ」
「分かってます。それこそ絵の意味が無くなりますから」神父が続ける。
「そう考えると、私達のすべき事は避難場所の確保が第一なのでしょうね」
「そうだ、しかも街の人間全てを一ケ所に批難させるのは現実的では無い」
「一番の方法は疎開ですか」
「うん。周辺の村落に人を分散させるための受け皿がいる」

「その役目は、私におまかせ願えませんか」
「できそうかね?」
「各地の教会と連絡を取り合ってみます。中には地方の自治体に、
 顔の効く方が何人かいらっしゃいますから」

そこからは青年が続けた。
「でも避難先が出来たとしても、街の人間が混乱して、
 速やかな行動が取れなければ何にもなりませんよ。下手したら暴動が起きます」
「そうだ。その理由の第一は、彼らが行動の指針を失う事に原因がある。
 だから街の人間を迅速に誘導できる集団が必要だ」
「それはでも、警察や軍隊には任せられないわけでしょ、現時点では」
「うん、何の戦争の徴候も無いからな。逆に騒乱罪に問われかねん。
 街の中でのネットワークは、秘密裏に行なう必要がある。
 こういうネットワークに適任な連中は、昔から相場が決まっている」

「誰ですか」「学生達だよ、どうかね?」老人が青年を見つめる。
「それはつまり、僕の分担という事ですね。まぁ連中は面白そうな事は、
 損得抜きで動きますからね、不謹慎ですが」青年が笑った。

「うむ。活動に必要な資金は全て言ってくれ。こちらで準備する。
 私自身が動かないのは卑怯なようだが、よろしく頼む」
「理解してます。あなたは表で動いちゃいけない、企業家ですから」青年が言う。
「そうです、そこに損得が見えなければ見えないほど、
 動けば必ず変な勘ぐりを受けます。私達に任せて下さい」神父も同意した。


二人が出ていった後、老人は感慨深げに呟いた。

「二人とも、設立当時に出会いたかった人物だな・・いや、これもまた運命か」




神父と青年は行動を開始した。
地方の神父の中からは、ぜひ法王庁に報告すべきだと言う意見も出されたが、
それは全てが終わってからにして欲しいと、神父は説得した。

何より一ヶ月経過した後でも、戦争の徴候が見えてこないのだ。
「現状では、事を公にはできない。あくまで万が一の為の体制作りとして、
 話を勧めるのが望ましい」それが三人の一致した意見だった。
民衆の煽動と受取られれば、簡単に投獄されてしまう時代だったからだ。

それでも人々が彼らの言葉に耳を傾ける、そのきっかけを作ったのは、
絵の奇跡の物語だった。
「不思議な事もあるもんだな」「時代の変わり目には、こういう事が起こるんだよ」
学生達も水面下で、様々に議論しあった。
結果、話の浸透はすこぶる早く、賛同者も順調に集まっていった。



「秘密にすればするほど、浸透が早いですね。
 人の心理って、そんなもんなんですかね」青年が言う。
「これも一種の戦術なのかも知れないね」神父は苦笑した。
二人は朝方の、駅のホームで話していた。少年も一緒である。

どうしても奇跡を起こした少年に会いたいと言う地方の要人の招待で、
神父と少年は列車に乗るところであった。
初めて見る機関車に心を踊らせているのか、神父の袖を引っ張りながら、
少年は多少興奮気味である。

遠くから数人の若者が手を振った。青年が手を振り替えす。
「街では、すっかり有名人なんじゃないか?」神父が笑った。
「こっちは誰だか分からないのに、声を掛けてきたりしますよ」青年が頭を掻く。
「浮かれてる場合じゃないんですけどね」
「実質、どのくらい成果が上がってるのかな?」
「何とも言えませんねぇ。雰囲気で動いている連中もいるし、
 本当に真剣に考えてるやつもいます。ただ随分話が浸透してるのは確かです」
「その時が来ないと分からないってことか。できれば来て欲しくないんだが」
「そうですね・・・嘘のように日常は平和です」青年は駅の雑踏を見渡した。

「この子の絵がなかったら、僕も信じなかったかも知れない。
 戦争が非現実的って意味が、やっと実感できてきました」
そう言って彼が少年の頭を撫でると、少年は何か思い出したように、
「あぅ・・!・・」ごそごそとポケットから紙切れを取り出した。

「?・・また何か描いたの?」青年が受取る。
「そう言えば、ゆうべ描いてたね。何が描いてあるのかね」
神父も覗き込む。鉛筆でのラフスケッチのようだ。
「なんだろ、魚かな?」少年が頷く。
「これをどうするの?おじいさんに見せればいいのかな?」また頷く。
「じゃ僕が渡しておくよ、心配せずに行っておいで」
「今日は、御老人は工場の方かね」
「ええ、敷地を見に行くそうですよ。僕も、この後寄るつもりです」
列車の汽笛がホームに響く。二人はそこで別れて、客車に歩いていった。

青年は駅前で馬車を拾おうとしたが、なかなか空きが来ない。
道を見れば、やたらに石を運んでいる荷馬車が目に付く。
(何かあったんだろうか)
目の前で空き馬車が停まった。そこで青年の思考は中断された。



港から吹いてくる潮風が、肌に心地よい。
老人を含めた会社の役員達は、街の役人と地図を見ながら、
しきりに歩き回って土地の見聞をしている。

ぱかぱかと馬車の音がする。老人が振り向くと、青年が降りてきた。
まだ打合せが終わっていないのを見てとってか、
青年は彼らとは少し離れた場所で、木に寄り掛かって様子を見ている。

そのうち見聞も一通り終わって、港まで降りて昼食という話になった。
「それでは、よろしくお願いします」街の役人と老人が握手する。
「手続きはこれで全部かね」
「ええ、意外と早く済むかも知れませんね。あと出来れば二人だけでお話を」
「ふむ・・ちょっと先に行っててくれ」役員達が歩いて岬を降りていく。

二人だけになると、役人が話を切り出した。
「蒸気船用のタービンの工場でしたな」
「ちょっと違うな。新型の内燃機関だよ。石炭は使わない」
「え?石炭を使わないのですか?」
「灯油を精製した後の軽油を使って動くのだ、まだ小型船舶用だが」
「軽油?あれは危険じゃないのですか?」
「安全に燃焼させる目処がついたので開発してみたのだ。
 まぁ廃物のリサイクル目的だし、需要がどれだけあるかは、
 まだなんとも言えない」

「・・・ではこれは、相当な評価を受けたと思われて良いのでは」
役人は封筒を取り出した。
「こんな場所でお見せするのも何ですが」「何かね、これは?」
「国からの正式な発注書です。内容は私は存じません。
 お預かりしてきただけですので」それだけ渡すと、役人は丘を降りて行った。

青年が駆け寄ってくる。「お疲れさまです」
「二人は列車に乗ったかね」「はい、こうなるとまるで興行ですね」
「確かにな」封筒を開きながら老人も笑う。
「なんです?」「国からの発注書だ」
「え、すごいじゃないですか。船の建造かな」
「まさか。うちはそんな大企業ではないぞ。それにいまさら注文が来ても、
 実際に作れるとも思えん。時間もない・・・・何だこれは?・・」

青年が横からのぞく。「!!!・・・まただ!」

「・・・どうしたのかね」老人が不安げに聞いた。
青年がポケットから紙を取り出す。
もはや予感があったが、老人が少年の絵を見つめる。
少年のスケッチと、封書から出てきた新型の船の図面は、その外観が酷似していた。


老人の胸が痛み出す。

「これは・・・兵器か? 新型の兵器なのだろうか?」
「最初ラフで見た時は魚のように見えたんですが・・このせびれのような部分は、
 乗込口ですね・・・水中を進む船なのでしょうか?」
「馬鹿な!うちの動力は空気のないところでは使えないぞ!・・
 いや、モーターを併用するのか。では発電しながら航行するのか・・」

鼓動が早くなる。
不吉な考えが心を黒く塗り潰していく。

(少年は絵を描いていた。私は彼の絵に惹かれた)
(私は才能を伸ばそうと考えた。やがて奇跡に気が付いた)
(絵は未来を写していた。彼は街が燃える絵を描いた)
(少女は夢を見た。彼女は村が燃えると言った)
(私達のせいで村は全滅した。敵は村を脅威と誤解した)
(工場が完成する前に街は狙われる)

(「しかしどうあっても歴史は繰返すんですかねぇ」)




ついに彼は、口に出して言った。
「私の工場が、攻撃の目標なのではあるまいな」
「まさか!・・そんな事は・・」「違うと、言い切れるか?」
青年は答に詰まった。「・・・・・・・」

(どうすればいい? どう考えれば良いのだ!)老人は胸を押さえる。
(・・自棄を起こすな!考えろ!最後まで)

「手伝ってくれ・・考えてくれ」老人が片手で頭を押さえながら、青年に問いかける。
「・・いいですよ、どうぞ」
「私の工場が原因で、街が狙われる可能性は?」
「・・正直、高いと思います。これが新型の兵器であるなら」
「その情報が漏れているという事だな」

青年は少し考えた。

「民間の部品工場にまで完成図が送られてきている事を考えれば、
 もうこの兵器は、他の場所でも製造が進んでいるはずです」
「つまり、もはや秘密裏に進んでいる事ではないと?」
「そうです。実用、配備段階の兵器だという事です。
 おそらく各地で作られた部品は海上輸送で首都に運ばれると思います。
 それを敵が知っている可能性は高いでしょうね」
「ここでは、組み立てられない訳か」
「はい。少なくとも建造は、この港では出来ないと思いますね。
 ここにはそんな施設はありません」

「街が建造そのものに使われないなら、なぜ敵は街を燃やすのだろう?
 私の工場が狙いだとしても、大掛かりすぎる」

老人は考えた。

(あの時は、どうだっただろう?)
(物資の現地調達は禁じられていた。・・・しかし敵は、そうは考えなかった。
 連中は、私達が現地人から食料を調達していると判断した)
(今、運命は繰返しつつある・・・!)




「・・・誤認だ」老人は呟いた。

「え?」「あの時と同じだ。おそらく敵はこの街を建造場所と誤認するのだ」
「しかし、ここはそんな大掛かりな港ではありませんよ」
「いや、彼らは必ず誤認する。今、運命は繰返しているのだ。何か理由があるはずだ」

「理由・・考えられるとすれば、完成品の配備ですかね」
「この港にか?しかし配備されるのは、この港だけではなかろう」

「工場の建設と、完成品の配備・・・待って下さい・・
 ・・この両方の条件を満たすのが、この港だけだとしたら?」

二人は顔を見合わせた。「・・・・・・それだ。」老人が呟く。

「私が港の近くに移転を考えた時に、運命の条件が、そろったのだ・・
 くそぅ!・・役所に行くぞ! 配備の件、確認しなくてはいかん!」
待たせていた馬車に、二人は乗り込んだ。
「役場へ行ってくれ!急ぎだ!」

岬から駆け降りて、馬車は通りを走り抜けようとするが、
どうも今日は、道が混雑しているらしい。二人はじりじりした。
「焦っても、仕方がないんだが」
先に平静さを取り戻したのは、老人の方である。汗を拭き、窓から外を見る。
やたらに石を積んだ荷馬車が多い。しかも瓦礫である。

「・・・・・・・・・!!!!これは・・」老人が胸を押さえた。



ほぼ同時刻。

南の村の駅で、神父と少年は村の司祭と別れを惜しんでいた。
「ほんとうに、いろいろとありがとうございます」神父が礼を言う。
「いやいや、何かあったら村全体で力になりますからな」
司祭は少年の前にしゃがんで、続けた。
「今度暇な時に、わしの似顔絵でも描いてもらおうかのぉ」
少年はにこっと笑って頷く。司祭も笑って、少年の頭をわしわしと撫でた。

「しかし心配でもあるのだがね」「と言いますと?」
司祭が立ち上がって話す。

「皆さんのやっている事は、運命と戦っているという事なのだ。
 もちろん意義のある事だろうが、ひょっとしたら・・・」
「ひょっとしたら?」
「人の『分を越えた戦い』かもしれん、と思ってのゥ」
「神への冒涜でしょうか」

「いやいや、そうは言わん。その少女の想いも良く分かる。
 しかしそれら全てを考えた上で、なお・・・」「・・・・」

「運命は、人の理の上を行く存在のような気がしての。
 さぁ、もう列車が出る。また遊びに来なされよ」
列車の汽笛が鳴った。



ごとごとと軽快に、列車は海沿いの線路を北上していく。
少年は座席でうとうとと眠っている。神父は窓の外の海を見た。
もうそろそろ西日が眩しい時間で、水平線には蒸気船の煙が数本、
ぼんやりとたなびいている。

「運命は、人の理の上を行く存在、か・・」

これまでの出来事が、夢のように感じる。
(私の人生の中で、最も不思議で、充実した時間だったような気がする)
少し疲れて、窓の景色を見ながら神父も眠りに就こうとした。

「・・・・・・・・・?」
奇妙な違和感を感じる。しかし眠いせいか、思考がはっきりしない。
座り直して、パンパンと頬を叩く。
「・・・・・・私は、何を感じたのだ?」
もう一度窓の外を見る。
風景は変わらない。水平線の向こうに、数本の蒸気船の煙が見える。
しかし今度はしっかりと思考する。と、違和感の答が出てきた。

(民間の船が、あんなに数隻も並んで航行するだろうか?)
神父の眠気が飛ぶ。背中に冷や汗が流れるのを感じた。





「その小道を曲がってくれ!川向こうの通りに出るんだ!」
老人が御者に叫ぶ。馬車は急転回して小道に走り込んだ。
青年は吃驚して老人に問いかけた。「どうしたんです?」

「・・・まさかそんな事が・・・」
老人は青年には答えず、窓から身を乗り出して目を凝らす。
「・・・・!!!!やはりか!どうなってるんだ!」
青年も後ろから首だけ出して確認する。「・・・えっ!!」

ビルの解体が始まっているのだ。
道端では瓦礫が次々に、荷馬車に運び込まれている。

「停めろ!降ろしてくれ!」老人が叫ぶ。馬車は急停車し、老人と青年が駆け下りた。
ビルの解体現場の路上に、不動産屋の姿が見える。
「おい!もう始まったのか!」

店主も驚いて振り向いた。
「わ、あんたですか。ええ、始まりましたよ。どうも工事関係の都合らしくて」
「都合って?」青年が聞き返す。

「何だか、岬に工場ができるらしいんですよ」

「!・・・」老人が胸を押さえる。店主は続けた。
「で8月以降は、そっちに人が取られるらしいんですわ。
 それで急遽、始めようって事になってですね。なんせ小さな街でしょ、
 人手が足りなくって」
「・・・・・なんて事だ」「はい?」
「・・・これは何を意味する・・どうなるんだ・・」老人が考える。

(「手続きはこれで全部かね」)
(「ええ、意外と早く済むかも知れませんね」)

「・・・・まずい・・・道路建設も、早まるかも知れん・・・」
老人の顔に、脂汗が滲んでくる。

道端の三人に、数人の若者が走りよってきた。「あの!」
青年が振り返る。「君たちか。」
「あの、これって、例の話のビルじゃないですか?・・これが合図だと」
一人が不安そうに尋ねた。青年も掌に汗を滲ませ、老人を見つめる。

(「どうしますか」)

「もう時間がない」老人は、やっとそれだけ答えた。

青年は頷き、若者達に振り向いて言った。「行動開始だ」
全員に緊張が走った。





         ◆◆◆





「かねての打合せ通り行動してくれ。
 西の丘に海上の見張りをつけるんだ。街道筋と駅にも数人。
 学校と病院にも人手をやってくれ。特に病人は移動の手助けがいる。
 学生以外でもボランティアで動いてくれる人は、すでにリストアップしてるから、
 全員に連絡して欲しい。指揮系統の混乱がないように。煽動は厳禁だ!
 避難する村落は、それぞれのエリアで確認はとってあるね?」
「大丈夫です」「大丈夫です」若者が各々に言う。
「全ての配置が整ったら連絡を待つ事。勝手に避難を始めちゃいけない。
 暴動になる危険がある。軍隊が見えたら必ず連絡する。厳守してくれ!」
「分かりました!」若者達は走って行った。

「君も行け。後でうちに来てくれ。そこで落ち合おう」老人が言う。
「どうされるんですか?」「役所に行く。非公式でも全て話しておいた方が良い」
「では、かっきり二時間後に、ご自宅で」「うむ」老人は馬車に乗った。



駅には列車が到着していた。神父と少年は、ホームを小走りに急ぐ。
公衆電話から老人の自宅に電話を入れる。出たのは執事だった。
「もしもし・・・帰ってきてない・・・分かりました」
(まだ岬にいるのだろうか)電話を切った神父の後ろから、声がかかる。
「あの、神父さんじゃないですか?」
振り向くと若者たちが立っている。どうやら学生らしい。

「そうですが。ああ、君たちは例の?」「はい、ボランティアです。急に連絡が入って」
「連絡?では、あれはやはり軍艦かね!」「軍艦?僕達はビルの話なら聞きましたが」
「ビル?」話が噛み合わない。神父は落ち着いて聞き直した。
「ビルとは、あのビルの事かね?あれがどうしたんだ?」
「取り壊しが始まったんです。ほら」若者の一人が指差した方向を見ると、
瓦礫を積んだ荷馬車がごとごとと走っている。

「そんな!・・早すぎる。8月という話だったのに」神父は真っ青になる。

「それで急遽、いつもの打合せ通りに動きだしたんです。
 僕らの他にも、町中に散らばっているはずです」
「西の丘にも、確か誰か行ってるんだよね」「え?ええ。見張りが立ってるはずです」
「彼らから連絡が入るはずだ。軍の艦隊らしき船がこちらに向かっている」

「ええっ!」

「まだ未確認だが、丘の連中が一番に発見する可能性が高い」
「どうすればいいんでしょう?」若者達は、少し震えている。

「確認が第一だ。いいね。できれば丘にあと数人やって、
 道なりに連絡係を立たせておくんだ。街まですぐ届くように」
「分かりました!」彼らは頷いて、去って行った。

少年が不安そうに、神父の袖をぎゅっとつかむ。
「大丈夫だ。心配いらないからね」
(そうだ、まず子供達を安全な場所に預けないと。それから御老人の家に行こう)




丘の上では数人の学生が、手に望遠鏡を持って海上を眺めていた。
「・・・おい、あれって、客船か?」一人が指差して言い出す。
「え?」残りが一斉にその方向を見る。
じっと見入るが、この距離ではまだ望遠鏡の倍率が足りない。
水平線から立ち上る煙の下には、まだ船体そのものが見えないのだ。
安易に判断が下せない。唇を噛んで、じっと望遠鏡を覗き込む。

「・・・・船体が・・・・黒いか?」
「いや、まだ見えない・・見えた!黒いぞ!・・軍艦だ!」
完全に船舶が視野に入った。まぎれもない異国の艦隊である。
「来た・・本当に来たぞ!軍艦だ!」



「はは・・まさかそんな」役人は老人の話を全く取り合おうとしなかった。
「嘘ではない!この街に軍隊が向かっているのだ!
 急いで避難しなければ、取り返しの付かない事になるぞ!」
「では伺いますが、どこからそんな情報が入ってきたのですか?」
「それは!・・・それは」老人が言葉に詰まる。
「よいですか!そんな未確認の情報など流布すれば『国家騒乱罪』に問われますぞ!」
その瞬間、轟音が響いた。



窓ガラスが激しく揺れる。「!」
役人が驚いて窓の外を見る。老人も窓辺に走った。

遥か洋上に数隻の軍艦が見える。港から一筋の煙が舞い上がっていた。
同時にヒュルヒュルという、聞き覚えのある音が聞こえてくる。
老人の血の気が、ざぁっと引いていく。

音は段々と大きくなり、港でニ度目の大爆発が起こった。爆音が町中にこだまする。
役所の中の人間も一斉に窓辺に集まってきた。
「おい!なんだあれは!」「港が燃えてるぞ!」

老人の心臓がばくばくと激しく鼓動する。
(来てしまった・・本当に来てしまった!)
今さら老人は、心のどこかでまだ信じ切れていなかった自分に気付いた。
立て続けにさらに二回、三回と爆発音が聞こえる。
「避難しろ!何をしているんだ!」老人が叫ぶ。
周囲の人間は一斉にわぁっと玄関に殺到した。



街では人々が港の方を指差して騒ぎ出していた。
青年も港を振り返った。もうもうと黒煙が上がっている。
「そんな!・・・早すぎる!」そう思った瞬間、遠くに閃光が見えた。
続けて耳をつんざくような爆発音が響く。周囲のガス灯がぐらぐらと揺れる。

あちこちで悲鳴が起こる。人々はパニックに陥った。
「急いでくれ!みんなを誘導するんだ!」青年は叫んだ。
それを合図に学生達が叫んで回った。
「北へ逃げて!北です!落ち着いて避難して下さい!荷物は最小限に!」
ぶんぶんと腕を振って避難経路を指し示す。
「北です!この区域は北へ逃げて下さい!」「馬車は降りて!走って逃げるんだ!」
狼狽した人々は一斉に学生達の指示に従う。
あっという間に通りには、北へ向かう人の波が出来た。
「よし!ここはもう大丈夫だ!数人は人々を先導しろ!他は次の地区へ!」
「はい!」「移動先を間違うんじゃないぞ!落ち着いて行動するんだ!」


「ここでいい、降ろしてくれ」神父が言った。
馬車が停まり、少年と神父が掛け降りる。不安そうにしている御者に、
「君も逃げなさい、この地区なら通りをまっすぐ行けば他の人と合流できる」
「あ、ありがとうございます」また爆音がする。馬が不安そうに嘶く。
「どうっ、どうっ!」
「馬車は切り離した方がいい。馬が暴れて転倒したら危険だぞ」
神父はそれだけ忠告して、急いで教会に走って行く。少年も必死で付いてくる。
教会にはかなりの人数の人々が集まっていた。
「神父さま!」「神父さま!」
「皆さん落ち着いて下さい!敵は海上からの砲撃です。ここも安全とは言えない。
 私の言う通りに避難して下さい!それと子供達を頼みます」
神父は到着していた数人のボランティアに避難経路を説明した。
「了解しました」「さ、お前も彼らと一緒に」老人は少年に言うが、
少年は首を振り、袖を引っ張る。

「どうした、どこへ行くんだ」「あぅ!・・・う!」
「!・・御老人の屋敷に行きたいのか?」少年は頷いた。
「わかった。考えてる暇はない。皆さん、後はお願いします!」



爆発は断続的に続いている。その間隔は段々と短くなって行く。
役所前の通りにも、焦げ臭い粉塵が舞い上がっている。
「いったい何発打ち込むつもりだ・・港を完全に破壊するつもりか」
老人は人の波を避けて、港の方を睨み付けた。
(どうすればいいんだ!・・どうすれば砲撃が止まる・・)
「!・・そうだ、聞きたい事がある!」老人は役人につかみかかる。
「ひっ!な、何をするんです!」「例の兵器はこの街に配備されているのか?」
「え、え?」「あの船はこの街に来ているのかと聞いてるんだ!」
「し、知りません!私は何の連絡を受けていません!
 だいたいあれはまだ、一隻も完成していません!」

「完成していない?」「そ、そうです。連中は、あれが目的なのですか?」
「やはり誤認か・・」「え?」

「敵船に伝えなければいけない!この街の無線電信機は、どこにあるんだ!」
「え!あ・・港に、港湾連絡所にあります」「よし行くぞ!」

「ええ!嫌です!嫌です!」「お前が行かんと場所が分からんではないか!」
また爆発音が響く。ぐらぐらと建物が揺れた。
「港の近くじゃないですか!死にに行くようなもんです!」
役人はその場にへたり込んでしまった。
「えい!もういい!」老人は港に向かって走り出した。




「まだ御主人様は帰っておられません」執事は泣きそうな顔で言った。
「そうか・・電話を貸してくれないか」神父は言う。
「どうぞ、どうぞ」返事を聞くなり神父は居間に上がり込んだ。
少年は階段をばたばたと上り、二階へ駆け上がって行った。

日頃連絡をつけておいた村落に、次々に連絡を入れる。
「そうです!・・始まってしまいました。・・はい、お願いします。
 数時間後には人が殺到するはずです。冷静な対応を。はい。
 私も引き続き入れますが、他の村にも連絡を回して・・お願いします」

「誰か!帰っておられますか!」玄関で叫び声が聞こえた。
青年も戻ってきたのである。
「おお、こっちだ!」神父が居間から声だけで返事する。
「御老人は帰ってないのですか?」「うん、まだだ。無事だとは思うのだが」
そう言いながら神父はさらに電話を続けた。
爆音は絶えまなく続いている。屋敷は港からは遠いが、
それでもぴりぴりと空振が響いてくる。

「あの子は教会のみんなと避難したのですか?」「いや、二階だ」
「二階?絵なんか放っとけばいいのに!」
青年は二階へ駆け上がり、アトリエに飛び込んだ。
「逃げるぞ!なにしてる・・・・!」少年がいない。「え?」
隣の部屋から少年が飛び出してきた。

「何だそれは?何をする気なんだ?」

少年が引きずってきたのは、カーテンだった。
厚手のカーテンをずるずると床に引きずり、四隅を引っ張る。
そこへ連絡を終えた神父も上ってきた。「なにをしてるんだ!・・?」

少年はバケツの水を足元に置き、絵の具を溶き出した。

「????」青年は混乱する。「?・・おい。今さら何を!」
神父が青年を手で止める。「待って・・様子を見よう」
「何言ってるんですか!今の事態が分かってるんですか!」
「いいから!彼に描かせるんだ!」神父も叫ぶ。

「また何かを起こそうとしてるんだ・・描かせるんだ」
「しかし!絵なんか描いてる時間はないんですよ!」





駅前では、まだ人々が悲鳴を上げながら逃げ回っている。
すでにホームでは火災が発生し、あたりにはもうもうと黒煙が立ち篭めていた。
老人は逃げまどう人々と逆の方向に走っている。心臓が割れそうに痛む。  

(運命は繰返す!運命は繰返す!)   すぐ近くで爆発が起こった。
(冗談じゃない!また同じ事なのか!) 老人が道端に伏せる。

港では次々に爆発が起こっている。停泊中の船が燃えている。

白煙が立ち篭める向こうに連絡所が見えた。中にはもう誰もいない。
老人が立ち上がって飛び込んだ。通信機は無事である。
窓の外から見る港は炎に包まれていたが、彼はまったく恐怖を感じなかった。

「こんな馬鹿な事があるか!」うろ覚えの操作で通信機を叩く。

「砲撃ヲ中止セヨ 目的ノ物ハココニハ有ラズ」
「砲撃ヲ中止セヨ 目的ノ物ハココニハ有ラズ」
「砲撃ヲ中止セヨ 目的ノ物ハココニハ有ラズ」

「聞き分けろ!同じ人間だろうが!」また近くで爆発が起こった。

「砲撃ヲ中止セヨ 目的ノ物ハココニハ有ラズ」
「砲撃ヲ中止セヨ 目的ノ物ハココニハ有ラズ」
「砲撃ヲ中止セヨ 目的ノ物ハココニハ有ラズ」


       「信じろ!」



 返信が届いた。「!」老人が愕然とする。

「砲撃ハ軍本部ノ命令ニテ 中止スル事ハ叶ワズ」








(「どうして?どうして一緒に来てくれないの?」)
(「上官の命令なしには、行動できないんだ」)


       運命は 繰返す








突然、涙が溢れる。あとからあとから溢れて、止まらない。

埃に汚れた両手を震わせて、顔を覆い、老人が嗚咽する。
そのままずるずると机の横にへたりこんでしまう。

まるで子供のように泣きじゃくる。
涙は、悔し涙であった。
ただただ、悔しかった。無性に腹立たしかった。

次々に響き渡る轟音の中で、老人はただ、泣き続けた。




「・・・・!・・・こですか!・・・どこですかぁ!」
ふと、その爆発音に混じって、遠くから声がする。

老人はゆっくりと立ち上がり、窓の外を見た。
青年と神父が走ってくる。「!・・・・」

「どこにいるんですかぁ!」青年が叫ぶ。

神父は港の広場に立つ国旗掲揚用のポールに、必死で何かを結び付けている。
また爆発が起こった。二人とも伏せる。

「ここだ・・おーい!ここだ!」「!・・早く!こっちへ!」
青年が見つけて掛け込んできた。
「無茶ですよ!何やってるんですか!さ、早く!」
老人を引きずり上げて、二人は通信所から這い出した。

「おーい!手伝ってくれ!」神父が呼ぶ。
また爆発が起こった。「うわっ!」神父がよろけて倒れた。
老人はポールに結び付けられた、カーテンを見た。
「痛た・・おい、頼む。私一人では無理だ」神父が叫ぶ。

上空は爆風と炎で、ごうごうと風が渦巻いている。

「これは・・なんだ?」老人がぼんやりと尋ねた。
「あの子が描いたんですよ」青年は言いながら、カーテンを掲揚する。
「うわ、重いなぁ、くそ!」必死で綱を引くと、少しずつ上に上がって行く。
「手伝って下さい!ほら!見てないで!」青年が叫ぶ。
老人ははっとして青年と共に綱を引いた。

ごおっと突風が吹く。重いカーテンが途端にはためいた。
ポールがしなり、風に乗ってカーテンがぐんと上に上がる。
「!・・・あいてててて」青年が手を火傷した。

「今だ!綱を結び付けて!」神父が叫ぶ。
全員で綱を固く結び付ける。カーテンは完全に風に煽られて、
上空でばたばたとひらめいている。

また爆発が起こった。「!」三人が伏せる。


「!・・・・・・・・・」
「!・・・・・・・・・」
「!・・・・・・?」






砲撃が、止んだ。





「・・・止まった・・・・」

相変わらず、ごうごうと煙が渦巻く上空で、
カーテンは、ばさぁばさぁと、大きくはためいていた。
新たな爆発は、起こらない。
まるで、魔法のように砲撃は止まった。


カーテンには、ただ真っ赤な絵の具で、
思いきり、縦と横の十文字に、線が描かれているだけだった。




         ◆◆◆




「赤十字規約? なんですかそれ?」
青年が、神父にたずねる。掌の包帯が痛々しい。



街には、人々が帰ってきていた。

砲撃が止まってしばらくして、艦船は沖合いに離れて行った。
軍艦がいなくなった連絡は、すぐさま疎開先に伝わり、
避難先から少しずつ、人は街に戻ってきていた。

港は完全に燃え、港湾を中心に、街にも甚大な被害が出たが、
その規模にも関わらず、奇跡的に死者は出なかったのである。

砲撃から三日が過ぎ、街は少しずつ復興を始めた。
老人を含めた三人は病院で治療を受けたが、
これもまた幸いな事に、三人とも軽度の難聴と青年の手の火傷のみという、
比較的軽い怪我で済んでいた。
ただ老人は、心臓に過度の負担がかかった事を理由に、
安静を言い渡され、屋敷で療養する事になった。

今日はその老人の見舞いをかねて、
青年と神父、そして教会の子供達が呼ばれて、
庭園でささやかな食事が行われていたのである。

少し離れた場所では、子供達がきゃっきゃっと走り回っている。
もちろんその中に、少年もいた。


青年の質問に神父が答える。

「国際条約の一種らしいね。まだ始まったばかりで加盟国も少ない。
 あの艦隊は、たまたま加盟していたらしいよ」
「どういう条約なんです? 休戦条約なんですか?」
「詳しくは知らないが、戦傷者のための条約なんだ。
 あの旗が立っている場所には一切の攻撃は加えてはいけないらしい」

神父が続ける。
「もちろん・・そんな事を、あの子が知っているわけもない」

老人は揺り椅子に揺られたまま、空になったティーカップをもてあそびながら、
黙って話を聞いている。
「・・・・・・・・・」

「最後まで、不思議な子でしたねぇ」青年がため息まじりに呟いた。
「ああして遊んでいるところを見ると、普通なんだけどね。
 ああ、そういえば」神父が老人の方を振り向いて伝える。

「役所では、あなたの功績を讃えて、
 名誉市民だか銅像だかって話をしているらしいですよ」

老人が軽く笑う。「私が受けると思うかね?」
神父も笑って答える。「全く思いませんな。でも・・」

「ほんとうに、がんばりましたな。立派です」

また老人は笑って、目を閉じて言った。「少し疲れた。失礼するよ」
あとの二人はにっこり笑って、朗らかに話しながら、その場を立ち去った。





季節は初夏であったが、木陰で涼しい。
少し風が吹いて、老人の前には少女が立っていた。




老人は薄目を開けて、話しかける。

(人生とは、不思議なものだな) 少女が、笑った。

老人もにっこりと笑い、そのまま目を閉じた。
揺り椅子が、きこきこと揺れている。



『生に執着する者 間際に 死神に出会い
 生を全うする者 間際に 天使に出会う』




天気は良く、若草の匂い立ち篭める芝生の上に転がった、

空のティーカップの、白が、眩しい。














カードの真意「終わりと始まり・死と再生」


いやぁ、本当に長くて申し訳有りませんでした^^;
もうこんな長篇はこれっきりにしますので、ご勘弁下さい。

結局書き上げるのに一月ほどかかってしまいました。
まぁ仕事の合間にちょこちょこと書き続けましたので、
実際使った時間は一週間程度なんでしょうが、

やはり固有名詞や時代をぼかして書くと、長篇は難しいですね。
星新一さんとか、偉いよなぁとか改めて思っちゃいました。



さて死神です。
一般的には不吉で、あまり好かれていないこのカードですが、
私は意外に好きなんですよね。
運命の厳しさを教えてくれているカードという雰囲気が好きです。

多くの場合、このカードの意味するところは「タイムリミット」です。
時間と運命の考え方。それがカードには描かれています。

人生においては、良い事にも悪い事にも「期限」があるんです。
人は無限には生きられませんし、
良い事だけが永遠に続くという事もありません。

ただ、人は運命を持って生きていますから、
その良い事にも悪い事にも、必ず「意味」があるはずです。
学びもそうですし、出会いもそうでしょう。

そしてこのカードは、
意味に気付くのには「期限が切られているんだよ」という事を言っているんですね。

しかし私達は、あまりに運命に無頓着なので、
たいがいの場合はそれを気付かずに終わってしまいます。
良い事は、できるだけ引き延ばそうとするし、
悪い事は、できるだけ早く終わらせようとします。

その結果、良い事には「慣れ」が生まれて、その意味が薄れてしまい、
悪い事からは何も「学び」を得られずに、ただ通り過ぎてしまう。

多くの人がそうやって、過ちを繰返します。
私もそうですし、皆さんもそうでしよう。
個人だけでなく、国や集団でも、そうです。

だから、また運命は同じ事を準備するのです。
過去に起きた事と、全く同じような「意味を持つ事」を、
その人生、歴史の前に準備します。

それは良く見ないと見えないし、気付きません。
全く同じ意味を持ちながら、まるで違うように見えるからです。

死神のカードがスプレッドに現れた時は、
そこを良く考えて、自分の周囲を見渡さなければいけません。

「気付いてる? もう時間が切れるよ」と、カードは言っているのです。


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余談ですが、
今回の話は丁度明治初期、今から100年ほど前に設定しています。
当時はまだ自動車も飛行機もない時代で、

日露戦争まっただなかでした。
あの戦争で欧米はロシアの勝利を確信していて、
予想を裏切られて愕然とし、アジアは日本の勝利に驚きました。


100年後の今、まったく「同じ意味を持つ事」が中東で起こっています。

運命が、ただただ繰り返すものならば。
今後の世界は、どう変化して行くのでしょうか?


さて次回は「節制」です。
どんな人生が、待っているのでしょう?


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