「運命の輪
 WHEEL OF FORTUNE」

昔、奴隷の村の少年が、
夕暮れの河原で一冊の本を拾った。


本はそのほとんどが白紙で、最初の数枚だけに、
幾らかの文章が綴られているのみであった。

しかし少年は文字に飢えていたので、
喜んで本を持ち帰り、
月明かりの晩は、読めない文字を指で辿りながら、
遅くまでそれを眺めて過ごしていた。

両親は学は無かったが愛情が深かったので、
少年から本を取り上げようとはせず、
彼はいつもそれを抱いて床についた。




とある年、村を流行り病が襲った。
奴隷の村であったので役人は見向きもせず、
ろくな手当てをされぬまま、
幾人もの村びとが倒れ、苦しんでいた。
少年の両親も熱を出し、倒れ苦しみ、

彼は心から両親を救いたいと願い、涙を流した。

その夜、少年の本に文字が浮かび上がった。
少年は驚き、村の長に告げた。

新しき文字は、

「村の下水に油を流し水の表面を火で洗い
 熱あるものに蛇苺の葉を煎じて与えよ」と記されていた。

病は収まり、少年の本の話は領主に届いた。

小さな領土ではあったが、領主は理解と見識が深かったので、
彼から本を取り上げるようなことはせず、
村の病を放置した役人はその任を解かれ、厳しく罰せられた。
少年と両親には平民の地位が与えられ、
領主は彼を学校に通わせた。





やがて彼は成長し、領主の娘と恋に落ちた。
二人の仲を知った領主は驚き、強く悩み、彼に告げた。

「昔の奇跡は認めよう。おまえの才能も知っている。
 だがやはり奴隷の出の物を、娘の婿に迎えるわけにはいかん」

二人は悲しんだが、
その頃より数年の間、領土は旱魃が続き、
国に納める租税もままならぬ有り様が続いていた。
領主は心労で痩せ衰え、疲れ果てていたので、
これ以上の悩みは増やせぬと思い、
娘も交際を諦めようと彼に伝えた。

彼は、何よりこの父娘の幸せを願い、
天に祈った。

その夜、本に文字が浮かび上がった。

彼はすでに字が読めるようになっていたので、
それを読み、驚き、領主に告げた。

新しき文字は、

「西の尾根の三つ目は良質の鉄を産するので
 鍛冶屋を集め農具を作り貿易をせよ」と記されていた。

領主は彼に語った。

「おまえが指揮を取るがいい。そのための全ての権限を与えよう。
 今の我が領土の有り様を救えるならば、私はおまえを婿に迎えよう」

彼は意志を持ってこれを行った。

もともと奴隷の出であったので、彼は先頭に立って鉱山を発掘し、
多くの技術者を領土に迎えた。
農民の中には鍛冶屋に職を変えるものも現れ、
旅人が噂を伝え、貿易は成功し、
領土に人と街は増え、活気が戻ってきた。

そして彼は娘と結婚し、新しき領主となった。




奴隷より領主となった彼は民に慕われ、多くの人望を得た。
本の噂を聞き付けて、遠くより賢者も集い、彼に仕えた。

ただ、その本に最初から書き記された文字だけは、
彼も未だ読むことは出来なかった。

賢者達は答えた。
「これは秘文字でありますな」
「昔の言葉なのか」
「さよう。よろしければ我等が解読を」

「いや、それは私が行いたい。
 そなたらを信じぬわけでは無いが、
 これは私の努めと思うのだ」
「では文献を用意致しましょう」

それからも幾度か、本に文字は現れ、
彼と彼の民を救い続けた。

領土は栄え、幸福は続くと思われた。






しかし数年の後、国は北方と戦争を始めた。

彼の領土は国の北に近かったので、
多くの領民が徴兵され、田畑は人手を失い、穀物は激減した。

畳み掛けるように、例年に無い霜害が領土を襲い、
品物は高騰し、人々の心は荒んでいった。

彼は王に租税の減免を申請したが、あえなく却下され、
さらに鉄鉱より武具の製造を命じられた。
その生産は国に管理され、
農具の生産は停止され、鍛冶屋はその技術を奪われた。

さらに北方からは戦乱による難民が流れ込み、
彼等への援助も領土の財産を圧迫した。

彼の妻も配下の者達も理解があったので、倹約に励み、
支出を押さえ、城の余分な金品は領民に分配された。

賢者達は知恵を絞り、田畑の復活に努めたが、
広く霜害にやられたまま放置された土地は、その肥沃さを無くし、
苗が根付く力も失われていた。

領土が滅ぶのは、もはや時間の問題であった。





「おまえは、良くやってくれた」

今はもう白髪で病床に伏していた先の領主は、
彼の手を取り、そう語った。

「これは運命なのかも知れぬ。
 おまえのせいではない。
 たとえこの地が国に接収されたとしても、

 私がおまえを、実の息子として愛し続けることに
 何もかわりは無い」


日は陰り、雨が長く続き、鉱山では落盤が相次いだ。
怪我人が続出し、人手はさらに減った。


「私はあきらめません。この有り様が運命などと。
 きっと良き道があるはずです」


旅人は醜聞を流し、領土を訪れるものは減り、
交易は麻痺し、食料はいよいよ枯渇していった。


「多くを望んではいけない、息子よ。
 私は、十分に幸せであった」


河川は氾濫し、領土を洪水が襲った。
家屋は流され、多くの民は犠牲になった。
戦況は悪化し、難民はさらに多く領土に流れ込んできた。


そして、先の領主は息をひきとった。
彼の妻は大いに嘆き、彼は天に叫んだ。


「神よ・・神よ!
 あなたは、どこを見ておられるのだ!」




その夜、本に文字が浮かび上がった。

新しき文字は、

「洪水により洗われた大地は肥沃であるので
 その地に移民を受け入れよ
 彼等の持つ北方の種子は繁殖が早く強健であるので
 収穫は年に二回と定めその開墾と農耕の方法を学べ
 河川の流れが収まらぬうちに山脈より材木を運び
 新たな住居を建設し多くを住まわせ
 彼等の建築の知識も学び入れよ
 移民の中より服飾の新たな技術を持つものを選定し
 職なき者達に学ばせ交易を再開し
 これを特産とし経済を立て直し領土を復興せよ

 全ては早急に事を進め
 鉱山の損失によって
 武具の調達に支障をきたし不利に立つ王国に
 北方の民の文明の貴重さを訴え休戦と共存を進言せよ」と記されていた。


彼は涙し、賢者達は声を震わせた。

「これこそ、奇跡でございます」


彼は意志を持ってこれを行った。

領土は大きく復興し、周辺の貴族諸候は彼を褒めたたえ、
王は彼の進言を受け入れた。

王国と北方と領土には、平和が戻ってきた。





本の存在は王の知るところとなり、
王はその献上の勅命を下した。


「献上なさるのですか?」
「致し方あるまい、勅命なのだ」
「名残惜しゅうございます、あれは多くの困難を救ってくれました」
「うむ・・せめて私はその前に、あの秘文字を読む」

彼は寝る間も惜しみ文字を研究した。
その秘文字は、まだ彼が幼き頃、
幾夜も見つめては眠った文字であり、

彼には忘れ得ぬ文字であった。




ある夜、遂に彼はその文字を読んだ。


秘文字は、

「汝が我を必要としなくなった時

 蝋を塗り込んだ羊皮紙を七枚重ね我を包み
 縄で十字にきつく縛れ

 その時
 我が奇跡と存在は

 我を最も強く記憶するただ二人を除き
 全てのものたちから
 忘れ去られるであろう

 そのように行い我を元の場所に戻せ」

そう、記されていた。



「・・・決して必要としなくなったのでは無い、しかし・・・」

彼は、燭台の灯の元、本に語りかけた。

「・・・おまえのちからは、この世には大きすぎるのかも知れない」

彼は、羊皮紙と蝋と縄を準備し、
意志を持ってこれを行った。

縄を十字に結んだ瞬間、本は強く輝いた。

「!」

しばらくの後、その輝きは消え、
部屋には静寂が帰ってきた。

「・・・私は、おまえを覚えている。
 ・・・後の一人は、誰なのだ?」

しかし妻も城の者も、本の存在は忘れていた。
賢者達も、何に関心を持ってこの地を訪れたのか、
いっこうに思い出せなかった。

「・・!・・まさか、王ではあるまいな」

彼は貴族の衣装を脱ぎ捨て、独り城を出て、
一刻も早く本を戻すため、
それを拾った河原に向かった。



河原は夕暮れであった。
着ている服は身分を隠すため、ぼろぼろの古着で、
しばし、彼は遠い昔を思い、そこに立ち尽くした。

「思えば、おまえを拾わなくとも、
 私はこうしてぼろぼろの服で今日の夕暮れを、

 見ていたのかも知れない・・・」




突然、彼は後ろから刺された。

「!」



彼を刺したのは、
その昔、村の疫病の際に任を解かれ罰せられた役人の、
息子であった。

職を失い放蕩した役人は病に倒れ息を引き取り、
残された彼と母は苦難の日々が続き、
母親も不幸のうちにこの世を去った。

残された彼だけが、その本の奇跡を忘れず、



夕暮れの河原で、そこに入る二人だけが、
本に選ばれた二人であった。


『運命は全てを、元ある場所へ戻そうとする』


ぼろぼろの服を着たまま、
領主は息を引き取り、

その手を離れた一冊の本は、
河に流れ、見えなくなっていった。




カードの真意「啓示・機会」


さて、というわけで「運命の輪」の物語でした。
お疲れ様でした^^;

まぁこの「運命の輪」からは「人生編」ということで、
それぞれのカードに人の人生を当てはめて
書いていこうと思っています。

第一章より、かなりボリュームがあるのですが、
最後まで読んで頂いて、ありがとうございます^^


物語に出てくる「本」は、もちろんカードに描かれている
4つの「本」の事です。

人、鷲、牛、獅子の四つの生き物が、
「本」を持つことにより翼を手に入れ、
「運命の輪」から逃れていますね。

それとは反対に、未だ運命から逃れられない
生き物(おそらく男と女ですね、蛇は欲望です)も
描かれています。

それ相応の知恵を持たぬものは、
運命の禍福から逃れる術は無い。

カードは、そう伝えているのでしょう。

しかし。

その大いなる知恵を私達はどこまで持っていけるのか?
そもそもその知恵を持ち得るだけの「器」があるのか?

今回はそんなことを考えながら、
物語を書いてみました。

物語の最後は、「ソードの10」を連想させます。
ですが、だからといって彼の結末は、
はたして一概に不幸と言い切れるのでしょうか?

いろいろと感想を持って頂いたら、
書いた甲斐もあります^^;



占断の実際ですが、
これは「機会、チャンス」をピンポイントで表します。
特に何か計画を持たれている方には、いいカードですね^^

「エースの正位置」と一緒に出るようなら、
方向性は問題なしでしょう。

もともとが「現在持っている考え方」を「保証してくれる」
カードですので、
周囲に「迷い・不安」を表すカードが出たら、
それは払拭しても構わないと思いますよ^^

逆に「リバース」の場合は、
これはちょっと難しくなるんですが、

「考えが間違っている」と取ると、ちょっと怪しい^^;
「考えはあってるが、時期が来ていない」と読んで、
その上で「どこが間違っているか」を探すのが、

リーディングとして的をしぼれるように思います。

基本的な方向はあっているんだけど、
運命を味方につけていない。

そういう場合に出るのが「運命の輪のリバース」です^^
「間違っている」というのとは、
ちょっとニュアンスが違います。

でも、方向があっていて失敗するのは、
方向が間違っていることより辛い場合が多いですので、
リバースには十分気をつけましょうね^^;

さて、次は「正義」の物語です。
どんな人生が、

待っているのでしょうか?


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